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【Topics】原作者・西加奈子が語る、映画「まく子」の魅力

子どもと大人のはざまにいる少年・サトシが、転入生の“大きな秘密”を持つ美しい少女との出会いを通じて成長していく姿を描いた同名小説「まく子」を鶴岡慧子監督が同名映画化。原作者である直木賞作家・西加奈子さんに、本作への思いを聞きました。


Q.今回の映画化において、西さんからの条件はあったんでしょうか?

A.どんな現場でも「一人は必ず新人さんを入れてくれ」と言っていまして。この映画がきっかけで世に出るとか仕事を得られるような、チャンスのある現場であってほしい。条件はそれだけでした。私も27歳でデビューした時に、編集者を紹介してくれた人たちに本当に感謝しているので。なるべくそういう機会が増えればいいなと。

Q.「まく子」の主人公・サトシ君は、大人になることに戸惑っていますが、西さんご自身はそういう経験はありましたか?

A.サトシ君ほど繊細ではなかったです。うちの両親は「親とはこう」っていうものが全然なくて、弱いところも見せてくれたし、ちゃんと私を尊敬してくれたし。早々に親が人間だってことを知らしめてくれたので、すごくよかったです。それは不安定でもあったんですけど、今考えたらそのおかげでフラットでいられました。

Q.草彅剛さん演じる女好きでだめな父親像もすばらしくて。

A.セクシーでしたよね。尊敬できない大人がいるというのがあたりまえだから。大人って普通に尊敬できないんですよ、自分も含めて。それなのに子どもに偉そうにして、変な存在ですよね。本当はみんなそんなことないのに。

Q.でも、大人だと意識しすぎないのも問題なのかなと思ったりします。

A.“子ども性”を言い訳にしてはだめですよね。でも、言い訳に使わない部分の子ども性であったら、それを殺す必要はないと思います。それはまぎれもない自分の一部だから。究極、外側も中身も大人な人は超レアだし、外側も中身も子どもな人もレアだし、人って、すっごく複雑だと思うんですよね。どの部分をその人に差し出すかによって印象も変わる。ただ、私は、大人でも自分の子ども性や、子どもでも自分の“大人性”をさらけ出していいと思う。

Q.確かに、「まく子」には、外側とは相反する大人性や、子ども性を持っている人がたくさん出てきますね。

A.そう。大人だから、子どもだからというレーベルで括ることはしたくないなって。大人だから尊敬しないといけないわけでもないし、おかしいと思ったら言うことを聞かなくてもいいと思うんです。逆に、自分も子どもに「大人やからなんでも知ってるやろ?」と言われたら嫌だし。それはそれで大人の責任を放棄しているようですけど、逆に子どもだって子どもらしくしなくていい。それぞれが心地よければいいな、という理想を描きたかったんだと思います。

Q.そういう凝り固まっていない視点は、小説を書くことで育んでいるんでしょうか。

A.小説を書くって、「なんで私はこれを美しいと思ったんだろう」「なんで私はこういうことが嫌いなんだろう」と一から解体していく作業だから、毎回生まれ変わっているという感覚はあります。私は小説を書いてなかったら、もっとガチガチの偏見持ちになってたと思うんですけど、このぐらいでなんとかいられるのは小説のお陰ですね。今も充分偏見はあるんですけど、41年生きてきたうえでの自分の価値観とか凝り固まった考えを1作品、1作品で破壊していってる感覚なんです。

Q.それでまた新しい自分が出てくると。

A.はい。その新しい自分というのも凝り固まったものだから、それもまた壊していく。作家が作品を書きやめないのは、答えが1回出て終わってしまうものではないからなんじゃないかと。寡作であろうが思考し続けることは絶対大切だから。私はサボってすぐ考えるのをやめてしまうので、小説があることでなんとか考えられてます(笑)。

Q.この映画では、本当かうそかよりも、誰かを信じようとする思いが描かれていますが、殺伐とした世の中でそれでも信じようと思えるのはなぜなのでしょう。

A.そこまで大きな思考にまでもっていけてないんですけど、例えば誰かと私が仲よくしてて、違う子から親切心でその子のことを「あの子は裏でこういうことしてるで」と言われることがあったりして。私もしてしまうときがあると思うんですけど。宇宙の真理とか以外の、「あの人の本当の性格」って暴く必要があるのかなって。もし、その子が嫌な面を私に見せないでいてくれるなら、それはそれでその人の努力だし、傷つくことをされたらその時に初めて傷つこうと。先回りして勘ぐるのが嫌なんです。

Q.さっきの大人と子どもと同じで、差し出している部分が真実なんですね。

A.そうそう!。 自分にいいところを差し出してくれてるのならなるべくそこを信じたいし、彼女や彼が私にいい人と見られたいのだったら、私はそれをちゃんと受け取りたいんです。だから、ネットの情報のほうが、生身の人間より勝っちゃうのも嫌で。順番が違って、自分で見て触って匂いをかいで感じたいのに、先に情報がきちゃうと私も偏見があるから、身構えてしまう。とにかく会いたいし、自分の目で確認したいんですよね。

Q.その思いが、「まく子」には詰まっていますね。

A.そうですね。自分で見たものをちゃんと信じるとか、自分の感情を持とうとか、そういうことだと思います。しかも、大人たちもそれを信じるんですよ。すごく理想的やけど、私は理想を書いていいと思ってるし、その理想を作っていくと宣言したい。だから、自分にとっての希望が込められた作品です。

にし・かなこ
1977年イラン・テヘラン生れ。エジプト・カイロ、大阪育ち。2004年に「あおい」でデビュー。’05年発刊「さくら」は、20万部を超えるベストセラーに。以降、多くの賞を受賞し、「サラバ!」で第152回直木賞を受賞。今年「まく子」が映画化され、3月15日(金)より「テアトル新宿」をはじめ全国公開。


「まく子」
ひなびた温泉街の旅館の息子のサトシは、自分の体の変化に悩む小学5年生。ある日、クラスに美しい少女が転入してきて次第に親しくなっていく。言動が不思議なその少女に戸惑いながらもひかれていくが、少女から信じがたい秘密を打ち明けられる。本作は、思春期を生きるサトシの葛藤と少女との初恋を軸に、様々な人間模様が交錯する不器用な人たちの再生の物語。鶴岡慧子監督・脚本、山﨑光、新音、須藤理彩、草彅剛ほか出演。3月15日より、東京の「テアトル新宿」ほかにて全国公開。


◎2019「まく子」制作委員会/西加奈子(福音館書店)日活配給。

取材、文・小川知子
撮影・若木信吾
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